どうなる今冬のエネルギー供給2024(上)-LNG、LPG、石炭
冬の暖房需要が意識され始める時期だが、2024年冬のエネルギー動向について、リム情報開発の各レポート担当記者が、8月中旬時点での見通しをまとめた。 今冬のLNG需給は2020年以降の過去数年と比べると、やや緩い展開になりそうだ。欧州の天然ガス在庫は7月25日時点で貯蔵率が83.37%と、ほぼ昨年並みのペースで積み上がっている。欧州は11月1日までに貯蔵率を90%にまで高める目標を掲げているが、これも昨年同様に早々と達成できそうな勢いだ。在庫が潤沢ななか、ノルウェーのガス田などで大きなトラブルが発生しない限り、蘭天然ガス(TTF)市況をはじめとする欧州の天然ガス市況は上値の重い展開が続くと予想されている。 欧州の高在庫は、北東アジアの需給にも影響する。米国など大西洋出しのLNGが欧州ではなくアジアへ流入し、供給が増加しやすくなる。さらに、中国はLNGの輸入量が最も多いにもかかわらず、このところLNGよりも割安なパイプライン経由の天然ガスや、国産の天然ガスを優先的に買い付けている。そのため、北東アジア着相場の上げ幅は限られるとの見方が大勢だ。ただ、LNG船の航海日数が長期化しているため、ラニーニャ現象で北東アジアの気温が例年を著しく下回った場合は、日本や韓国の需要家が期近着の買いに殺到し、「手前の相場が上がり、一時的にバックワーデーションを形成する」(欧米アナリスト)可能性が指摘されている。 【LPG】 米国では、2030年にかけてLPG輸出量が年間1,500万トン程度増加すると見込まれている。長期的な輸出増が予想されるなか、需要期である今年の冬場も、同国からのLPG輸出量の増加が年間のうちでも大きな割合を占めるとみられる。昨年懸念されていたパナマ運河の滞船は足もとでは見られない。しかしながら、極東向けの輸出量が大幅に増加すれば、今後パナマ運河の通峡枠が拡大された場合でも、混雑は避けられないと市場関係者は指摘する。さらに、パナマ運河の通峡権のオークション価格が高騰し、極東向けのフレート相場の上伸も予想されているようだ。一方、フレート高や供給増でFOB米ガルフの相場には下押し圧力が生じる可能性がある。 中東では、石油輸出国機構(OPEC)と非OPEC主要産油国で構成する「OPECプラス」が2025年も協調減産を継続することで合意している。ただ、今年10月以降は一部の自主減産について徐々に規模を縮小する計画だ。これによって、数年前から新たな石油プロジェクトに積極投資しているアラブ首長国連邦(UAE)は、来年1月からの生産枠を日量30万バレル引き上げることを要求しており、UAEのアブダビ国営石油(ADNOC)からは、原油に付随してLPGの販売余力が拡大することが見込まれそうだ。 【石炭】 今冬の発電用一般炭需要は前年を下回る可能性がある。二酸化炭素の排出量が多い石炭火力に向けられる視線が年々、厳しくなっているためだ。財務省貿易統計によると、24年前半の月間ベースの一般炭輸入量は前年同月を下回るケースがほとんどで、石炭離れが進んでいることが窺われる。今後、一段と液化天然ガス(LNG)や再生可能エネルギーの利用が増えるとの見方が強い。 ただし、需要が急激に落ち込むとの見方は少数。国内では引き続き原子力発電所の稼働が低迷し、再生可能エネルギーの普及も十分ではない。当面は割安な石炭火力を一定水準、稼働せざるを得ない状況だ。 年度内に公表される第7次エネルギー基本計画での石炭火力の位置付けにも注目が集まっている。
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