2024年は前年に続き、石油化学メーカー各社は業績の悪化に苦しんだ。中国を中心に新規エチレン設備を中心とした石油化学設備が新規に稼働開始したことで、需給が緩んだためだ。25年も中国で新たな石油化学設備が相次いで稼働開始をする。一方で米国はエタン、エチレンの輸出能力を引き上げる。米中の狭間に立つ欧州、アジアはその対応を迫られている。
1.中国の石油化学への投資は継続 中国では25年も大型のエチレン設備の立ち上げを予定している。中国石油化工(シノペック)、中国石油(ペトロチャイナ)などの国営系企業のほか、万華化学などの民営系企業、さらにはエクソンモービルやBASFなど欧米企業がそれぞれ100万トンを超える大規模な石油化学コンプレックスを立ち上げる予定だ。
2025年に稼働が見込まれるエチレン設備
|
国
|
メーカー名
|
系列
|
能力
|
中国
|
エクソンモービル
|
|
1,600
|
中国
|
独山子石化
|
2
|
1,200
|
中国
|
吉林石化
|
2
|
1,200
|
中国
|
万華化学
|
2
|
1,200
|
中国
|
広西石化
|
2
|
1,200
|
中国
|
CSPC
|
3
|
1,600
|
中国
|
BASF
|
|
1,000
|
中国
|
洛陽石化
|
|
1,000
|
インドネシア
|
ロッテケミカル・タイタン
|
|
1,000
|
能力:1,000mt、リム調べ
|
一方で中国では投資計画の見直しも行われているようだ。サウジアラビア基礎産業公社(SABIC)は24年1月に、福建省政府系の福建石油化学(FPC)と合弁で27年にエチレン設備を中心とした石油化学コンプレックスを建設することで合意した。しかし、24年10月にはサウジアラムコ、シノペック、FPCの3社の合弁企業が、30年稼働予定で石油精製、石油化学を統合したコンプレックスの起工式を行った。SABICはサウジアラムコの完全子会社である。稼働開始時期を先送りするとともに、中国におけるサウジアラムコのエネルギー戦略の拠点として、計画を練り直した可能性がある。この件についてサウジアラムコに対し回答を求めたがノーコメントとした。
2.欧州、アジアで進む構造改革、原料輸出を拡大する米国
欧州では24年、エチレン設備の廃棄、閉鎖の決定が相次いだ。2基が24年中に廃棄され、そのほか2基が廃棄される予定だ。アジアでは出光興産が千葉に保有する1基の廃棄を決定済み。また西日本でも三井化学、旭化成、三菱ケミカルが将来的な能力削減を含む生産体制最適化を検討中だ。このほか、ベトナムでSCGグループ傘下のロンソン石油化学、フィリピンでJGサミットがそれぞれ採算悪化を理由に石油化学コンプレックスの操業を停止中だ。
廃棄済、廃棄が公表されているエチレン設備
|
国
|
メーカー名
|
系列
|
停止時期
|
能力
|
|
オランダ
|
SABIC
|
3
|
2024
|
550
|
|
フランス
|
エクソンモービル
|
|
2024
|
400
|
|
日本
|
出光興産
|
|
2025*
|
413
|
|
イタリア
|
ヴェルサリス
|
|
2029
|
440
|
|
イタリア
|
ヴェルサリス
|
|
2029
|
530
|
|
能力:1,000mt、リム調べ
|
*出光興産は2025年度下期の予定
|
|
|
|
|
これに対し米国は安価なシェールガスを武器に、エチレンやその原料であるエタンの輸出に拍車をかけている。米国で原油や天然ガスのパイプラインなどのサービスを提供するエンタープライズ・プロダクツは、液化ガス船事業を行うナビゲーター・ガスと合弁で運営するエチレン輸出事業の能力を200万トン増の300万トンに引き上げる予定だ。米国のトランプ次期大統領は国内の原油、天然ガスの掘削を促進することを表明しており、これに伴いエタン供給が増加、エチレンメーカーが原料のエタンを安価に調達できる見込みだ。欧州、アジアでの再編や稼働調整が行われても、米国からの輸出が穴埋めをする可能性が高まっている。


|