記者の眼記者の眼

第255回 (2024年7月24日)

 5月末、石油化学業界の会議が開催されるのを機に韓国を訪れた。出発前に旅の友としてタブレットPCにいくつか小説をダウンロードした。会議は毎年アジア各国が持ち回りで主催する。2008年、リムに入社し初めて参会したのはシンガポールでの開催だった。この時は紙で印刷された文庫本数冊をトランクケースに忍ばせた。紙の本にも愛着はあるが、何冊持ち歩いても重さが変わらないタブレットPCは便利だ。

 

 当然だが、石油化学産業は人の生活様式が新しくなるごとに、需要構造も変化する。本を紙で印刷すれば、紙力増強剤やインク、表紙の樹脂加工と石油化学製品が必要になる。一方で、タブレットPC1台生産するには、筐体や基盤、塗装、液晶やその保護フィルムなどに石油化学製品が用いられる。ただ、新たな本を購入、ダウンロードしても石油化学製品は消費されない。日本では、閲覧スタイルの変化によって出版用の印刷インキ需要は縮小した。そういえば新聞もスマートフォンで読んでいる。

 

 思い返せば2008年に持ち出したのは吉川英治の宮本武蔵だった。今年ダウンロードしたタイトルにも吉川英治による大谷刑部や黒田如水が含まれていた。読む手段が変化しても、読まれる本の価値は変わらない。

 

 今後も生活様式とともに、石油化学の用途も変化し続けるだろう。それでも産業に関わる多くの人に、名著のようにといわないまでも、価値ある情報を届けていきたい。

 

 

(北村)

 

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